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先日、私の住む町の公立小学校を見学させていただきました。

全校生徒は420人で、学区の中では一番小さい小学校です。

障害のある生徒は75人。

学習障害が大多数で、車イスなど運動障害の生徒は現在在籍していません。

 

クラスは障害のある生徒も障害のない生徒もいっしょになっています。

しかし、全てのカリキュラムを同じように行うことは難しいため、担任の教員とは別に特殊教育教員やTAもクラスに入っています(学年や生徒の障害内容による)。

日本では、通常20-30人のクラスに先生が1人ということが多いので、まずこの違いに驚きました。

 

障害のある生徒は、IEP(Individual Education Plan)という教育プランを持っています。

生徒1人1人の状態をテストし、その結果を見て心理学者もいっしょに個別の計画が立てらます。

学校内にはセラピスト(理学療法士、言語聴覚士、作業療法士)が在籍しており、彼らによるトレーニング内容や、必要に応じた合理的配慮がIEPに基づいて実行されます。

費用は学区が負担するので、障害のある生徒の家族が個人負担するものはありません。

障害の状態によって、学校では十分ケアできない場合は、学校外でのトレーニングを受けることもあります。

 

このIEPは毎年春に1年間の振り返りをします。

例えば、「設定した目標を達成したか?」「次の1年の目標、どういう事にフォーカスするか?」などを話し合います。

生徒たちは3年ごとにテストを受け、まだそのサービスが必要かを判断されます。

習得が早い生徒は、3年待たずにテストを受けることも可能。

また学区内に住む学校に通えない重度障害の生徒には、セラピストが家庭を訪問してトレーニングを行っているとのこと。

これも勿論自己負担はありません。

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学校には一般の先生以外にも生徒たちをサポートする人がこんなにいます!

 

特殊教育教員:

一般の先生といっしょに授業をサポート。

例えば、担任の教員がクラス全体に「数学の問題を10問やってください」と指示した場合、特殊教育教員は「Aくんは5問やってね」など、障害のある生徒のレベルに合わせて問題数を調整する。

障害のない生徒といっしょのクラスにいながらも、個別の目標に合わせた学習環境がある。

 

作業療法士:

3校で勤務し、この学校には週2回来ている。

担任の教員と相談し、生徒は通常授業の一部を別の部屋で作業療法士と過ごす。

少人数グループで、モノを切る・文字を書くなど手の動きのトレーニングをしたり、長時間座っていられない子どもたちへのセラピーサービスも行っている。

 

言語聴覚士:

常勤。利用している生徒は約70人。

言語障害の生徒が多く、週2~3回・30分間のトレーニングを行う。

担任の教員と相談し、子どもは通常授業の一部を別の部屋で言語聴覚士と過ごす。

読解や計算を直接教えるのではなく、それらを行うために必要な言葉のスキルを身につける。

例:自閉症の子どもに言葉を教える、手話を教える

 

この日はお会いできませんでしたが、理学療法士とメンタルヘルスカウンセラーも在籍しています。

 

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合理的配慮の事例をいくつかご紹介します。

 

・視覚障害のある生徒へ音声読書機の手配

 

・聞きとり、書き取りが苦手な生徒に、事前に話す内容が書かれた用紙を渡す。他の生徒たちは何も書かれていない用紙を受け取り、メモを取る。

 

・1人で歩いて帰ることができない生徒にはバスを手配。

(たとえ自宅が学校の道路向かいだったとしても)

学校からバスに乗り、家族がバスを降りるところで出迎える必要がある。

もし誰も迎えに来ていなかった場合はもう一度学校まで戻る。

 

これらの合理的配慮は公立でも私立でも同様にアレンジされます。

アメリカでは連邦政府によってこれが厳しく決められており、州や学校はその方針に従わなけらばなりません。

日本では私立学校はまだしも、公立学校は予算がないなど様々な理由で必要な設備やサポートが整っていない状況があります。

私自身も、ずっとエレベーターのない公立学校に通っていたので、小学校入学の7歳から短大を卒業する20歳まで階段を上り下りしていました。

それを、この学校の人に話すと”OH MY GOD!”と皆さん同じ反応。

「歩けない人に階段を登らせるなんて、アメリカなら違法。あなたが訴えてもおかしくない環境よ!」と何回も言われました(苦笑)

 
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インタビューの中で聞いた印象的な言葉を紹介します。

障害がある子もない子も、みんな同じ子どもです。

お互いに学びあえるし、我々大人が子どもから教わることも沢山あります。

この学校では、地域に住む子どもたちが小さいときから一緒の教室で勉強をしたり遊んだり、色んな経験をしています。

だからこそ、突然叫んだり、走り出したりしても、誰もその子を”変な子”とは見ないのです。

ずっと一緒に過ごしてきていますから。

”この子はこういう子なんだ”ということみんな分かっています。

 

アメリカでは、小さい時から障害のある人…というか”色んな人がいる”とことを知る機会が多いんですよね。

そういう環境が、車いすの人を見かけたらドアを開ける、エレベーターを先に譲る…など自然に行動できる要素になっているのかもしれません。

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校長先生にもお話を伺うことができました。

この街は、高い貧困率・失業率・暴力行為など、子ども達が明るい未来を描きにくい環境になっています。

実はこれらも大きな”障害”の1つと言えます。

もちろん身体的には制限はないですが、精神的なインパクトはとても大きい。

例えば、この学校で働いている教師の教え子がつい先日殺される事件がありました。

まだたったの15歳です。

それによってその教師は大きなショックを受け、この学校の子ども達にも影響を与えてしまいました。

この高い貧困率・失業率・暴力行為はトラウマになり、子ども達の学習能力へ大きな影響をあたえます。

私はこのトラウマに立ち向かい、「君たちのこれからの人生は違うよ!」ということを伝えていきたい。

子どもたち1人1人を前進させ続けることが私のゴールです。

 

確かに、この町の貧困はかなり深刻です。

治安もすごく良いとは言えません。

日本では”障害”というと外見ですぐわかる身体障害の人を連想してしまいがちですが、目に見えない障害もたくさんあり、その中には”貧困”も含まれるんですね。

日本でも子どもたちの貧困が社会問題になっているので、私たちも考えていかなければならない問題です。

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最後に…

私自身はずっと公立学校の普通学級で過ごしてきました。

周囲に状況を理解してもらえる機会は沢山ありましたし、通常の教育を受けることができました。

でもその分、ハード面は決して楽ではなかったです。

公立学校ができることは階段に手すりをつけること、トイレの1つを洋式トイレに変えること、段差にスロープをつけることくらい。

私と私の家族はそれでもすごくありがたいと感謝していました。

でも、アメリカの学校を見ると身体に障害がある子どもにも、知的・精神に障害がある子どもにも、もっと色んな事ができるんじゃないかと考えさせられます。

 

日本では、障害があると地域の公立学校に通えなかったり、通えても特殊学級という障害者だけを集めた学習環境に入ることも多いです

普通学級とは違うカリキュラムに沿って教育を行っているのが現状です

大人が管理しやすい教育体制ではなく、障害のある子ども1人1人に何が必要かを考えて、それに対応していくことが必要なんじゃないかと深く感じました。

 

 
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2 thoughts on “アメリカの小学校訪問から見えた日本の教育課題

  • 12月 23, 2016 at 11:21 pm
    Permalink

    日本の障害者教育は子供にとって精神的にもきついものだと思います。
    私も通常の教育を受けましたが、毎日のように教員からクラスメイトへの感謝を強要されていました。
    周りへの感謝の気持ちは大切ですが、私はそこには居てはいけないのだなとしか思えず精神的にまいってしまいました。
    私はもう社会に出るのは難しいでしょうが、これからの障害を持った子供たちが多様性の認められた環境で教育を受けられる事を願ってやみません。

    Reply
    • 12月 25, 2016 at 3:47 pm
      Permalink

      コメントありがとうございます。
      確かにインクルーシブな教育環境があっても学校ごとに対応は大きく違うのかと思います。s.jさんが経験したような環境もあったり、障害のある生徒を必要以上にクラス全体で褒める環境もあると聞きました。それにより結局「特別扱い」に慣れてしまった障害者は一般教育を受けても一般就労環境に馴染めない人もいるそう。形だけインクルーシブではなく、ハード面もソフト面もしっかり整えていくことが重要だと思います。

      Reply

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