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お待たせしました!
ウィスコンシン&ミネソタの取材報告をさせていいただきます。
訪問先が多いので1つずつ紹介していきます。
ウィスコンシンでは、私の母校であるウィスコンシン州立大学リバーフォールズ校(University of Wisconsin River Falls = UWRF) を訪問しました。
車イスのトラブルや、そのほか障害に関連する困り事があったとき、いつも相談をしていたMark Johnson氏に取材するためです。
彼はStudent Ability Service (SAS) という障害のある学生をサポートするオフィスでコーディネーターとして働いています。
こんなかたちで再会できるとはお互い予想もしていなかったので、大いに話が盛り上がりました。
Mark氏は心理学と社会学で学士号取得。
その後、大学院でカンセリングを学びました。
カウンセラーとして働いた後、UWRFにて現在のポジションで働き始めたそうです。
SASに登録されている障害のある学生数はおよそ330名。
障害の種類別に見ると、学習障害・ADHD(注意欠陥・多動性障害)・精神障害が上位を占めています。
様々な障害のある学生たちへ必要なサポートをアレンジするのがMark氏の仕事です。
インタビューをするなかで、聴覚障害者向けのツールを見せてもらいました。
”FM System”というもので、日本では”FM補聴器”などと言われているようです。
補聴器を付けている学生にとって、大きい教室での授業は聞き取りが困難な場合があります。
(教授が遠いところで話している、教室内のエコーが妨げになる、など)
そんな学習環境を改善するために学生にこの”FM System”を貸し出しているのだそう。
学生は自分の補聴器に音声を受信する小さいパーツを取り付け、教授は音声送信機とマイク(セットになっている)を身につけて授業をします。
教授の声がよりクリアに直接補聴器に届くというシステム。
これについて日本に住んでいる聴覚障害の友人に聞いてみたところ、日本ではセミナーなどで貸し出すケースがあるようですが、大学で貸し出すというのは一般的ではないと言われました。
日本の大学にはサイズの大きい教室もたくさんあり、聴覚に障害がない学生でも聞き取りにくいことがあるでしょう。
このツールはぜひ日本の大学でも取り入れてもらいたいです。
取材の中では昔話に花が咲きました。
その中の1つで、(個人的に)面白かった昔話としていつもシェアしているものを紹介します。
私がUWRFに初めてやってきたとき、アサインされた寮はエレベーターがありませんでした。
部屋は1階でしたが、地下にキッチンと洗濯場所がありました。
日本から車イスを2台持ってきていた私は、1台を地下に置き、自分で階段を上り下りしていました。
というのも、階段を上り下りすることは日本で育った私にとって当たり前のことだったからです。
基本的に日本の公立学校にはエレベーターはないので、私は小学校(7歳)から短大卒業(20歳)まで階段を上り下りしていました。
数週間後、アメリカ人の先生がこの事態を知り、慌ててMark氏と寮の管理をしているresidentiall hallに連絡。
数日後、わたしの元に手紙が届き、そこにはエレベーター付きの寮に移るよう書かれていました。
そのアメリカ人の先生からは、「車イスの人が階段を上り下りするのは、日本では”普通”かもしれない。でもアメリカでは違法になるんだよ」と言われました。
当時、UWRFには10棟の寮があり、エレベーター付きの寮はたった2棟だけでした。
アメリカの長い夏休みの期間は、ほとんどの学生が実家に帰るため、通常決められた1棟しか寮は空いていません。
わたしは夏休みをそのままアメリカに残ることにしたのですが、その唯一空く1棟というのがまたエレベーターなしの寮(地下にキッチンと洗濯場所がある)でした。
もちろん、大学側としてはわたしに階段の上り下りをしてほしくないので、合理的配慮として、わたしの部屋に電子レンジを準備し、週に一度のランドリーサービスを提供してくれました。
勿論わたしの支払いはゼロです。
完璧とまではいきませんが、一生懸命考えて対応してくれたなと感謝しています。
Mark氏はわたしがUWRFを卒業した後も、これらの話を紹介しながらresidential hallの方々と寮のアクセシビリティ改善に取り組んできたそうです。
驚いたことに新しいresidential hallメンバーのなかには、この話をすでに知っている人もいたそう。
その結果・・・
今では新たに2棟の寮にエレベーターが付いたとのこと!!
わたしの経験がうまく貢献できたようです!
ちなみに、わたしが学生だった頃、Mark氏のオフィスの名前は”Disability Services”でした。
直訳すると「障害を支援(するオフィス)」です。
しかし現在は、”Student Ability Services”になっています。
意味は「学生の能力を支援(するオフィス)」。
Disabilityは「障害」の意味ですが、”Dis”を取って、Abilityになると「能力」という意味なんです。
”Dis”はその後に続く言葉を否定する役割なので、Disability = 「能力がない」つまり「障害」となります。
多くの大学では、障害のある学生をサポートするオフィスに”Disability”を使っています。
なぜUWRFはその名称を変えたのか尋ねてみたところ、
“Disability”という言葉に、”モノや人に依存して自立していない”というネガティブな印象をもっている人が多い。
特にUWRFの学生の大部分は学習障害・ADHD・精神障害であり、彼らは自分自身が障害(disability)をもっているとは感じてない。
そこでオフィスの名称を”disability”から”ability”に変えたところ、今までよりたくさんの学生が気軽に相談に来るようになった。
たった1つの言葉だが、その言葉がもっている意味はとても大きかったと感じている。
というMark氏。
日本語でいう「障害」を「障がい」と書くようにするのと少し似てますかね?
さてさて、今回もう一度母校に戻ってくることができて本当に幸せでした。
学生時代、Mark氏がアレンジしてくれたサポートには今でも感謝しています。
UWRFは小さい町の小さな大学です。でもわたしはこの場所が一番好きです!