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シラキュースで研究を始めてから教育にもっと関心を持つようになりました。
ミネソタ訪問では、障害者の教育分野に詳しいWendy Harbour氏にインタビューをする機会をいただきました。
彼女は以前、シラキュース大学の教授として在籍しており、現在はAHEADという障害者の高等教育支援団体で働いています。
同団体の日本オフィスも昨年設立されています。
詳細:
一般社団法人 全国高等教育障害学生支援協議会
直接お会いする前に、何度かメッセージのやり取りをして日程調整や質問票などを送っていた私たち。
しかし、取材当日の待ち合わせ場所(ホテルのロビー)にWendy氏が現れたとき、わたしは少し困惑してしまいました。
というのも、わたしに挨拶をしたあと、ロビーで待っていた別の女性にも挨拶をしたからです。
「わたしが聴覚障害者ということ知っていましたか?」
Wendy氏は満面の笑顔でそう言ってきたのです。
「そうなんですか‼︎ 知りませんでした!」と答えた私。
”良い意味で”サプライズでした。
「彼女は今日お世話になる手話通訳士です」
Wendy氏からの紹介で全てがクリアになりました。
聴覚障害の方+手話通訳士さん+わたしの3人だけで話すのは人生初の経験。
私の英語は完璧ではないのですが、手話通訳士さんが完璧に訳してくれたおかげで、Wendy氏との会話は凄く盛り上がりました!
長年の友人かのように沢山のことを話しました。
Wendy氏が聴覚に違和感を持ち始めたのは高校生の頃。
当時、私立の高校に通っており、卒業後はみんな大学に進学する学校でした。
しかし、学校側は彼女の障害を知り「大学に行きたくないなら、行かなくてもいいですよ」と提案。
障害を理由に学校側が態度を急変し、とてもショックを受けました。
しかしその言葉に負けず、彼女は大学進学を実現し、良き仲間に恵まれます。
しかし次なる壁は大学側のサポートでした。
授業で必要となる手話通訳士の費用を大学側は払えないと言ってきたのです。
大学側の回答に彼女は動揺し、裏切られた気持ちになり大学を去ることに。
その後、ミネソタ大学に編入し比べ物にならないくらい充実したサポートを受けました。
アメリカの大学には、良いDisability center(障害のある学生をサポートするオフィス)もありますが、中には良くないものも存在します。
大学自体が良い大学か否かは関係ありません。
良い大学であり障害のある学生もきちんとサポートしてくれるところもあります。
逆に、良い大学でもきちんと障害のある学生をサポートしないところもあります。
この違いは学生に大きな影響を与えます。
とWendy氏は教えてくれました。
大学生になったWendy氏は、聴覚障害者コミュニティに関わり始めます。
障害を負った事で諦めかけていた車の運転や、子育てを当たり前にしている仲間を見て、彼女の意識は大きく変わりました。
また障害者の中には「障害」があることを辛い事や悲しい事と捉えず、「自分の一部」と考える人もいることを知ったのです。
その後、博士号取得のためハーバード大学へ進み、ユニバーサルデザイン・障害学・高等教育・特殊教育を学びました。
皆さんご存知の通り、ハーバード大学いえば世界の中でもトップクラスの大学。
そのため周囲の人からは「5つくらい応募すれば、大学卒業前にすぐ仕事は見るかるよ。」と言われました。
しかし、最初の内定(前職のシラキュース大学)を得るまでの応募数は何と65件。
大学のポジションだけでなく、一般企業や連邦政府など、ありとあらゆる仕事に応募してこの結果です。
彼女と同じクラスの学生たちはみんな4~5件の応募ですぐ仕事のオファーを得ていました。
彼らと同じ事を学び、仕事の経験もあるWendy氏がこれほどまでに苦労したという事実は、障害者に対する雇用差別を明らかにしたものでした。
雇用主はみんな、わたしを雇用すると費用がかかると考えていたのでしょう。
職場では手話通訳士が必要になりますから。
わたしを雇うことに価値が見出せなかったのです。
例え費用が発生しても、わたしは何か他のカタチで彼らに価値を提供できるかもしれない。
でも彼らはそんな風には考えないのです。
と、Wendy氏。
教育専門家である彼女からのメッセージです。
アメリカのほとんどの人が、”自分たちはインクルーシブ教育を実行している”と考えています。
しかし、インクルーシブ教育を”人種の違い”としか捉えていない学校もあります。
人種が異なる学生たちを積極的に受け入れ、障害のある学生は固定の学級または別の学校で学ばせているのです。
その状況にも関わらず、”自分たちはこんなに’違い’を受け入れている!”と誇りにさえ思っています。
しかし、これは本当のインクルーシブ教育ではありません。
またアメリカでは、大学に進学し、学位を取得する事がとても重要視されます。
高等教育を受けることによって良いキャリアにも繋げられるからです。
しかし障害者は、就職活動おいて酷い差別を受けることがあります。
とても辛いことではありますが…障害のある学生たちには、大学卒業資格は助けになる事もあるだろうけど、必ず仕事が見つかるという保証にはならないと伝えています。
それでも、彼らには障害を理由に夢を諦めてほしくないのです。
これまでにも障害がありながらも素晴らしいキャリアを築いた人は何人もいます。
そして彼らが世界を変えたのです。
もっと多くの障害者が高等教育を受け、多くの事を学び、自分はどんな人間なのかを知ってほしい。
これまで沢山の大学生が社会の革命を起こしてきました。
次世代のエド・ロバーツ(*1) やジュディ・ヒューマン (*2) など、”障害”の分野で革命を起こす人たちを今後サポートしていきたいと考えています。
*1 エド・ロバーツ:
アメリカで初めて高等教育に進んだ重度障害者。
カリフォルニア大学バークレー校に入学。
障害者自立生活運動のリーダーであり障害者の自立生活センター(CIL)創設者。
このCILはバークレーから始まり、その後、全米に拡大していった。
*2 ジュディ・ヒューマン:
障害を理由に教員免許取得を拒否されたことから障害者の権利運動を始め「行動する障害者」=DIA(Disability In Action)という団体を設立。
CILの副署長として8年間勤務。
現在は、アメリカ国務省 国際障害者の権利に関する特別顧問である。