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少し間が空いてしまいましたが、ミネソタ訪問の最後のレポートです!
お話を伺ったのは、ミネソタ大学内にあるInstitute on Community Integration (ICI) のDerek Nord氏。
インタビューの初めに幼少期の思い出を話してくれました。
彼の母親が運営していたデイケアにある男の子がいました。
Derek氏はその子といっしょにキャンプ行ったのですが、家に帰って来ると、男の子の母親が泣いていました。
子供だったDerek氏には、何が起こっているのは全くわかりません。
しかしあとから、その母親は嬉しくて涙していたということを知ります。
実はその男の子には知的障害がありました。
母親は、息子が誰かと一緒に遊んでいる姿をそれまで見たことがなかったのです。
Derekはその経験から大学を卒業後、知的・発達障害者の職業支援を始めます。
その仕事を通して、雇用主と雇用される障害者の関係に多くの課題があると気づきました。
障害者の就労環境と政策を変えたいと考え、彼は大学院で研究をスタートさせました。
現在所属されているICIは、100名以上の研究者・指導者・アドボケートが所属する団体。
”Research and Training Center”では、知的・発達障害者のために情報提供、トレーニング開発、さまざまなサービスや支援を行っています。
特に力を入れているのは、障害者の地域生活と成人のネットワークサービスの分野。
当事者だけでなく、州政府・地方自治体・政策立案者・地域の障害者支援団体などとも協働し、障害者の生活向上に向けて積極的に取り組んでいます。
Derek氏が主に研究をしているのは、雇用に関するサービス・支援・政策の分野とのこと。
アメリカにおける雇用の課題を伺ったところ、障害者への雇用の機会が限られていること、また就労支援が十分ではないことを挙げられました。
このブログでも以前紹介しましたが、アメリカでは一般企業で働きたい場合
ほとんどケースにおいて、通常のプロセスで仕事に応募します。
健常者といっしょに選考された上で、そのポジションを勝ち取る必要があります。
日本のように「障害者枠」というものはありません。
Derek氏は、アメリカの”競争雇用プロセス”が重度障害者の大きなバリアになっているといいます。
仕事に応募するには、求人に記載されているすべてのスキルを持っている必要がありますが、
障害者の中にはそのスキルをまだ持っていない人もたくさんいます。
競争をする前からすでに壁が立ちはだかっているのです。
一方日本はというと・・・
大企業の中には同じグループ内に「特例子会社」をもっている企業があります。
健常者と同じペースで働くことが難しい障害者は、この特例子会社で働くことができます。
作業所などに比べると、特例子会社の就業環境・給与はとても良い条件が揃っています。
国から指定されている障害者雇用率2%(従業員数50名以上)はグループ企業をまとめて計算できるので、企業にとってもメリットがあります。
しかし、様々な障害をもつ人が1か所で働くため、その業務量や質は十分とは言えず、しっかりとした”キャリア”を築くことは難しいという課題もあります。
障害の状態や、企業の経営戦略によって異なりますが
一度、特例子会社に入社してしまうと、その後何年働いても親会社に異動できないという事実もあります。
私は日本にいたころ、特例子会社で働く方々とお会いすることがよくありました。
「どんな人が特例子会社で働いているのだろう?」と思っていましたが、実際に彼らと話をすると一般企業でも十分働ける可能性を感じました。
企業側が正しい理解をもって必要な合理的配慮を提供できれば、障害者の力はもっと伸ばせるはずです。
個人的に、特例子会社は悪いものとは思いません。重度障害者のためには絶対必要な場所でしょう。
しかし、特例子会社はもっと意味のある役割を担うことができるはずです。
障害者雇用率達成のためだけに、ただ必要な数の障害者を集める場所にするのはもったいない。
障害者の就労トレーニングをして、”実社会”へ送るサポートをするのです。
そうすることで一般企業で働ける障害者を増やし、自分のキャリアを築ける人を増やすことができる。
特例子会社は、障害者一人ひとりのキャリア構築のファーストステップの場所になれると私は考えます。