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より良い就職先や将来的なキャリアを考えて大学へ進学する人は増加傾向にあります。
障害者にとっても大学進学は珍しい事ではなくなってきました。
ニューヨーク州にあるシラキュース大学では、様々な方法で障害のある学生たちをサポートしています。
今回取材させていただいたのは、
知的障害学生たちを対象に学習面のサポートをしているSam Roux氏(ACCESS College Coordinator)と、障害者学生のインターンシップのコーディネートをしているBrianna M. Shults氏(Internship and Employment Coordinator)です。
お2人に紹介していただいたのは、去年12月から始まったという”Project SEARCH”というプログラムです。
障害者学生を対象に、大学が開講している約8ヶ月間、キャンパスで平日毎日インターンシップをするというもの。
1つの職場で10週間働いて次の職場へ移動。8ヶ月を通して3つの職場で働く経験を積みます。
インターン生は、毎朝教室に集まり、45分間をかけて仕事に必要なスキルを学びます。
例えば、決められた時間に到着すること、同僚とのコミュニケーションなど。
その後、各自インターンシップ先の職場へ移動して4時間仕事をします。
終業後には1日の振り返りを30分間かけて行うそう。
このプログラムは月曜日から金曜日までなので、1日4時間 X 5日間 = 毎週20時間。
フルタイムで働くにはまだまだ足りない時間数ではありますが、「働く」という経験をこれまでした事がない障害者が多いため、彼らにとっては20時間でもかなりタフになり得ます。
最初の就労経験として、このボリュームははちょうど良い時間数となっているそうです。
このプログラムに参加するには費用がかかりますが、その費用はニューヨーク州とアメリカ政府から提供される「メディケイド・マネー」という公的医療保険制度でカバーすることができます。
必要なサービスやサポートを受けるために、障害者に与えられた”予算”のようなものです。
以前は障害者がサービス・サポートを受けたいとき、まずエージェントに相談をして、エージェントによってどこのサポート・サービスを提供するかが決められていました。
そのため障害者が望んでいた内容と少し違うものが提供される場合も多々あり、完璧にマッチした支援を受けられなかったいう問題が起こっていたそうです。
しかし、去年から”Self-Direction (セルフ・ディレクション = 自分で決める、自律性)”がスタート。
障害者には毎年決められた金額の”予算”が使える事になっており、利用したい業者・団体は自分たちで決めることができます。
政府は障害者本人が決めた業者・団体に直接支払いをするという流れ。
政府と障害者の中間にいたエージェントはもういないということですね。
この方法によって、障害者は自分自身が必要と思うサポート・サービスを、自分が好きな相手から受けることができます。
また限りのある”予算”を賢く使うためにアドバイスをしてくれる人もいるそうです。
アメリカでは、大学生の間にインターンシップをすることがごく一般的。
インターンシップによって仕事の経験・スキルを得るだけでなく、ビジネスマナーなども身につけられ、そのあとの就職活動にも有利にはたらきます。
しかし障害のある学生にとっては、まずインターンシップ先を探すことがネックになります。
仕事をする上でどんな配慮が必要か理解が乏しい会社、提供できるリソースが限られている会社が多いのと、通勤するために利用できる公共交通機関が限られているということも理由に挙げられます。
日本でも、就職前のインターンシップは徐々に広がりを見せていますが、もっと一般的なのはアルバイトかと思います。
私も日本で学生だった頃、アルバイトをしてみたくて、いくつかの求人に問い合わせた事があります。
求人内容はデスクワークなど事務職や、中学生にマンツーマンで英語を教えるというもので、私の足の障害は直接的に業務に支障はないと考えていました。
しかし、私が車イスを使っているということを言った途端、「あー、無理です。無理です」と即答。
私の状態など少しも聞こうとはせず、ただ拒否するだけでした。
学生時代住んでいたところは日本の中でも田舎で、障害者への理解があまり無かったこともありますが
短時間のアルバイトは障害者雇用の法定雇用率にはカウントできない(カウントには週20時間以上が必要)という理由もあって
最初から学生アルバイトで障害者を雇うということは想定していなかったのかなとも思います。
このような企業のネガティブな対応を受けて、私はそれ以上アルバイト先を探す気にはなりませんでした。
運良く、1年生の終わりに友人の紹介で、アパート近くで出来るアルバイトのオファーをいただきました。
そこで働き、留学資金を貯めて、卒業後にアメリカのウィスコンシン州へ進学する事もできました。
またウィスコンシン州の留学先では、自分の勉強もしながら、授業のアシスタントとしてアルバイトをしたり、Global Connectionsという留学生をサポートするオフィスでインターンシップも経験しました。
それらの経験により実際に日本で仕事をする前に、いくつかの働く経験を積む事ができたのです。
しかし、これは本当に運が良かったケース。
通常日本にいる障害者学生がこのような経験をすることは難しいです。
その結果、職に就いたあとも必要な業務をこなせるまでに時間がかかりますし、
社内外のコミュニケーションにおいても、学生時代に働く経験を十分にした健常者社員と比較すると、やはり障害のある従業員は数年遅れを取ることもあるでしょう。
このように学生時代の働く経験は、将来のキャリアに大きく影響をもたらします。
障害のある学生が働く経験を得るために、自ら企業に交渉したり、強く訴えかけることはなかなか厳しいものがありますが、大学が間に入って学生と雇用主を結ぶことはできるはず。
もし大学が都市部にあれば、大手企業に大学側から交渉をしてみてください、
大手企業のなかには、すでに障害者学生へ働く機会を与える重要性に気づいており、実際に障害者学生向けのインターンシップを実施している会社もあります。
大学が地方にある場合は、地域コミュニティのと強い繋がりを生かして、地域の店舗や企業と協働インターンシッププログラムを作れるのではないでしょうか?
若い世代が少なくなっている日本*ですが、障害者雇用の法定雇用率は数年ごとに見直しがされ、そのパーセンテージは毎回増加**しています。
企業が能力のある障害者学生にインターンの機会を提供することで、実際に社員として雇用する前に社内の仕事がどれだけできるのかを見極めることができます。
事前に優秀な人材を確保するチャンスにもなり、必要な能力を満たしていない障害者を仕方なく雇うというボランティア目線の雇用を避けられるのです。
より多くの障害者学生が働く機会を得られれば、自分は何が得意で、何のスキルアップが必要で、将来何をしたいのかを社会に出る前に知ることができる。
その気づきは、障害者たちがより良いキャリアを築くための助けになり、最終的に理想的な雇用に繋げられるのではと考えます。
* 統計局による調査, 2016年 1月
** 厚生労働省 プレスリリース, 2012年 5月