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Nicole Kelley氏とTeresa McDade氏のインタビュー内容をご紹介しました。
そのインタビューのあと、何と!!
マイクロソフトの方々が円卓会議をセッティングしてくださり、
「障害」をテーマにディスカッションする機会をいただきました。
会議室に来られたのは5名、そして3名が電話会議システムで参加してくれました。
参加者は、自分自身に障害があったり、家族のメンバーに障害者(児)がいたり、
過去に障害者といっしょに何か取り組みをしたことがある方など。
話し合ったトピックは以下の4点です。
1. (障害に関して)これまでの経験や困難だったことは何ですか?
2. 困難や課題を乗り越えるヒントは何ですか?
3. 教育現場や進学の際に役立ったリソースは何ですか?
4. 変化していること、今後さらに変化が必要なことは何でますか?
仮名を使って、簡単にディスカッションのまとめを掲載します。
1. (障害に関して)これまでの経験や困難だったことは何ですか?
- Ryanさんは脳性まひがあり、現在日常生活は電動車イスを使っています。両親は彼を過保護にすることなく、多くのことに自ら挑戦できる環境を作ってくれました。公立学校と私立学校で一般教育を受けましたが、1980年代の当時は、アメリカの教育現場もまだまだ車イスでのアクセスは大変だったと言います。学校内の2つの建物はエレベーターがなく、手と膝を使って階段の上り下りをしていたそう。当時は手動車イスを使用していたそうですが、階段を上り下りするときに自分で車イスも引っ張って運んでいたというエピソードもありました。
- Jennyさんのご主人は学習障害とADHD(注意欠陥・多動性障害)があります。職場で仕事に必要なマニュアルを読む際、しっかりと内容を把握するため4〜5回読み直すことが必要になってきます。そのため仕事のパフォーマンスが遅くなってしまうことも。ご主人の同僚は、学習障害があることを知らされていないので、単に「動きが遅い社員」と誤解されているかもとJennyさんは言われていました。またJennyさんとご主人の間にはADHDのある息子さんもいます。
2. 困難や課題を乗り越えるヒントは何ですか?
- Anneさんの同僚には聴覚障害の方がいます。会議をする際は、”キャプション(字幕)サポート・スタッフ”がタイピング機器を持って会議室にやってきて、会議中のすべての会話を文字に打ち出してくれるそう。これは聴覚障害の同僚を助けるだけでなく、他の会議メンバーにも大好評。誰が何を言ったかがすべて書き出されるため、会議後に内容を見直すのに大変便利なのです。障害のある人だけでなく、そこにいるすべての人に利点があるというのは理想のかたちですね。
- Mattさんにも以前、聴覚障害の同僚がいました。その方は口の動きで何を話しているか読み取れる人でしたが、2名以上のグループで話し合いをすると、会話についていくのが難しいという状況がありました。2名以上の人が同時に話す場合もありますし、話し掛ける相手が反対側に座っていると口の動きを正面から見ることができないためです。そこで、Mattさんの会議メンバーは”フラッフィー・ボール”(写真)を使うことにしました。話をする人は必ずこのボールを取ってから話し始めるようにしたのです。そうすることで、一度に話せるのは1人だけになり、聴覚障害の同僚が確実に口の動きを読み取ることができます。小さな変化でも大きな効果を生むことができるのです。
3. 教育現場や進学の際に役立ったリソースは何ですか?
- Mattさんには発達障害のある息子さんがおり、幼稚園のときからIEP(*1)をもらっています。早い段階で障害が分かれば、それだけ早く子供により良いプログラムやサポートを探すことができる、とMattさんはおっしゃっていました。子供に必要なものが早い段階から分かれば、そのあとの教育や将来のキャリアにも良い影響を与えることもできますね。
- Jennyさんが指摘されたのは、障害児をサポートするプログラムは数多く存在するが、それらの情報は必ずしも学校側が提供してくれる訳ではないという点です。つまり障害児を持つ親が自分たちでまず情報を調べて、学校側に何を依頼すれば良いかを知っておく必要があるのです。また、教師のコミュニケーション能力が障害児たちの学習能力にも大きく影響するということもJennyさんは注目していました。
4. 変化していること、今後さらに変化が必要なことは何ですか?
- カナダ在住のMeganさんの母親は、2年前から車イスユーザーになりました。障害者のアクセシビリティを守る厳しい法律は存在しますが、バリアフリーになっていると見えて、実際はうまく機能していな場所もあると言います。例えば、スロープを登った先に”引き”ドアがある場合。ドアを引く必要があるので、車イスユーザーだとスロープを少し下がらなければドアを開けることができません。逆に押しドアであれば、まっすぐ進むだけなので便利です。 デザインする段階から車イスユーザーに意見を聞くことで、このような”便利なようで不便”という状況を避けることができます。
- RyanさんとMeganさんは、アメリカメディアも障害者への理解向上に貢献していると教えてくれました。例えば、アメリカのドラマ”Glee”, “Switched at Birth”, “The Supermarket”などは、主要人物が何かしらの障害を持っています。中には本物の障害者ではなく、健常者の役者が障害者を演じているケースもあります。それでも、そのような役があることで、社会の中に障害者が普通に存在しているということを伝える役割を果たしています。 またアメリカメディアでは、障害者がある専門分野でキャリアを積んでいく姿も紹介しています。例えば、FBI初の聴覚障害のある覆面捜査官であるSue Thomasや、聴覚障害者でアカデミー賞の主演女優賞を勝ち取った女優Marlee Matlinなどがいます。
参加してくださった方々、それぞれの目線でこれまでの経験や考えを伺うことができ、
とても貴重な経験をさせていただきました。
アクセシビリティ・教育・職場環境・メディアなど、アメリカの変化を実際に見てきた方々の声は、
ネットなどで調べた情報とは違い、心に響くものがありました。
日本と比べて、多くの分野で障害者の社会参加や平等な機会がある現在のアメリカですが
かつては今の日本のような時代もあったと言います。
そこから、少しずつ少しずつ変化していったのですね。
日本でもすでにハード面では大きな改善がされ、障害者の生活も徐々に便利になってきています。
しかし我々人間の障害者への見方は大きく変わったでしょうか?
まだ多くの方が障害者について話すことをタブー視していないでしょうか?
障害者が困難を抱えていることは事実です。
でもその困難は、既存の環境・制度が障害のない人を「標準」として作っている社会から発生するものです。
人は一人ひとり違っていて、それで良いのであり、
障害のない人だけが「標準」という考え方は無くしていかなければなりません。
多くの人がマインドを変えることができれば、障害者は「障害」を感じることなく
社会に存在する普通の人間になれるのではないでしょうか?
*1: アメリカでは障害のある子供に対して個別教育プラン(IEP = Individual Education Plan) が提供されています。
こちらについては、以下の記事で説明しています。