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シアトルで、Disability Rights Washingtonという障害者権利を擁護する非営利団体を訪問しました。
アメリカには各州に同じ機能をもった団体があり、アメリカ連邦政府はそれぞれの州に運営資金を支給しています。
Disability Rights Washingtonは、1977年よりワシントン州の障害者権利を守る機関として指定されています。
今回インタビューに応えてくださったのは、
Betty Schwieterman氏 (ディレクター), Emily Cooper氏 (弁護士), Tina Pinedo (デジタル・コミュニケーション・マネージャー)の3名です。
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現在アメリカでは、多くの障害者が “Equal Opportunities (平等な機会)”を与えられ、
一般教育を受けたのち、さまざまな業種・職種で活躍しています。
しかし、1940年代〜60年代にかけて生まれて来た障害児たちは、
医師に勧められ施設に入るケースが頻繁に発生していました。
何千人もの子供たちが家族から引き離され、一度施設に入ると出ることはできなかったと言います。
そしてその施設はとても悲惨な環境でした。
当時、ニューヨーク州にあったWillowbrook State Schoolという知的障害児の施設。
ここで働いていた心理学者は、ある日、Geraldo Riveraというリポーターを施設内に忍び込ませました。
子供たちが置かれている劣悪な環境を写真と映像に収め、その情報を世の中に公開したのです。
そこには4,000人しか収容できない施設に、6,000人にものぼる障害者が押し込められ、
服を着ていない人や、ほとんど介助がされず放置されたままの人など、
人が生活する環境とはとても言えない状況が映し出されていました。
そのニュースは瞬く間に世間に広がり、アメリカ全土に大きな衝撃を与えました。
この報道により、アメリカ連邦議会は障害者の権利を守り、擁護するためのネットワークを作りました。
Disability Rights Washingtonは、ワシントン州でその役割を担っている団体であり、
障害者が生活するエリアに入り込み、違法な行為がされていないかを調査する権利を政府から与えられています。
ネットワークの仕組みについては以下の動画をご覧ください。(英語のみ)
Disability Rights Washingtonでは、障害者に無料で数多くのサポートを提供しています。
2015年のデータでは、20,000人を超える方々が情報やサービスを受けており、
177,000人以上の障害者がDisability Rights Washingtonと訴訟を起こした結果、
何かしらの利益を得ているという結果が出ています。
Emily氏は、
“Nothing About Us Without Us (私たちのことを、私たち抜きに決めないで)”という、障害者自立生活運動のスローガンがありますが、現在の仕事はまさにそれを実行できるので、とてもやり甲斐があります。
クライアントの障害者が、私たちに優先すべきことをアドバイスしてくれるので、この状況を“legal anarchy (リーガル・アナーキー:合法の無政府状態)”と呼んだりしています。
私たちは障害者権利に関する情報を探し、それを使って行動を起こすのが仕事であり、クライアントの障害者自身は、訴訟を起こすために弁護士を探す必要はありません。
一番重要なのはクライアントである障害者の意見。弁護士・公共政策・メディアなどではありません。
私たちは常に障害者自身がどうしたいのかを最優先に考えて仕事をしています。
アメリカでも、まだ日常的に差別を受ける障害者は存在し、障害を烙印のように感じている人も多いです。
学生時代、私はウィスコンシン州で生活していましたが、その当時は障害を理由にした差別を受けたことはありませんでした。
しかし、現在住んでいるニューヨーク州シラキュースでは、違法にもなる差別的な出来事も経験しています(*1)。
とは言っても、実際にアメリカで訴訟を起こすには、多くの時間やお金、そして労力が掛かってきます。
このような場合、Disability Rights Washingtonのような擁護団体は、
まず障害者権利に関する情報やリソースを障害者に提供するところから始めることが多いと言います。
Disability Rights Washingtonは、主に集団訴訟にフォーカスしているので
個人案件の法的代理人を務めることは少ないそうですが
オフィスには、より近い目線でクライアントの障害者をサポートができるよう
職員・ボランティア・コミュニティメンバーに障害のある当事者も在籍しており、
困ったことは気軽に相談できる環境になっています。
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Disability Rights Washingtonの取り組みの1つに“Rooted in Rights”があります。
動画とソーシャルメディアを使ったプロジェクトなのですが、障害のある当事者自らが
実際に経験している現実や困難、改善してほしいことを発信するというもの。
「差別」や「烙印」というのは、ただ単にこれまで障害者と接した経験がないという状況から生まれてくることが多いです。
Rooted in Rightsでは、そんな健常者と障害者の間にあるギャップを小さくし
お互いの理解を深めるため、多くの動画を配信しています。
すべての動画は障害者権利に関連する内容ですが、問題を熱く訴えるのではなく
観た人が考えるきっかけになるよう、冷静なトーンでメッセージを伝えてます。
以下の動画は、車道と歩道の間にあるスロープ(英語では、”Curb Cut” カーブカットと言います)についての動画。
場所によってはちょっと段差が残っていたり、フラットになっていなかったり、という所もありますよね。
シアトルのカーブカットの実態と、街中にある”Crappy Curb”=「ちょっと残念なカーブカット」を見つけて、シェアしてくださいという内容です。
“Show us your #CrappyCurb”(英語のみ)
「カーブカットは障害者のためにある」と考えている人がいるかも知れませんが、
実際は、自転車に乗る人、ベビーカーを押す人、スーツケースを運ぶ人など多くの人にとっても便利なんですよ。
ぜひ日本でも探してみてください!
インタビューの中で驚いたのは、
Disability Rights Washingtonの皆さんがシラキュース大学法学部のKanter教授(*2) をご存知だったことです。
世間は広いようで狭いですね(笑)
今回、法律や人権の話も多かったので、Kanter教授が以前インタビューで言われていた言葉を思い出しました。
法律はただ紙に書かれた文字にすぎません。
実際に使われるまで何の意味も果たさないのです。
日本には、「三本の矢」という言葉があります。
一本の矢は簡単に折ることができますが、三本になれば強くなり簡単には折ることはできません。
障害者の課題に関しても同じことが言えるのではないでしょうか?
大きな変化をするため、もっと多くの人に関心をもってもらうためには
1人だけの力ではなく、人が集まり行動を起こすことで
強みを増し、より効果的で意味のある結果が出すことができるのではないでしょうか?
このブログ”Moon Rider 7 Project”は、
障害者への理解向上を目指して4年前にスタートしました。
また昨年からは、ジェフと一緒にオンラインでのディスカッションイベントも毎月開催しています。
多様性や障害者の能力・課題などをテーマに意見交換することで、
日本から世界へ障害者への理解を高めていけたらと考えています。
毎回多くの発見があるディスカッションなので、興味のある方は是非ご参加ください。
過去の報告記事は以下をクリックしてください。
https://moonrider7.com/tag/ability-for-success/
*1 シラキュースで経験したバス乗車拒否については、以下の記事を参照ください。
*2 シラキュース大学法学部 Kanter教授のインタビューは以下の記事をご覧ください。
“legal anarchy (リーガル・アナーキー:合法の無政府状態)”…こんな言葉があるとは、凄いですね‼
Rooted in Rights…こういう映像での取り組みいいですね。