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*** Part 2 はこちらです ***
社内にある従業員によるグループ ”Starbucks Access Alliance (SAA) “の定例ミーティングに
参加させてもらったことを書きました。
視覚障害者の視点でフィードバックをされていたメンバーがとても印象的だったのですが、
奇跡的にその方に直接お話を伺うことができました!
お名前はAdam Novsamさん(写真の前列左)。
スターバックス本社のビジナスアナリストであり、SAAのメンバーでもあります。
スターバックスで働き始めたのは2000年。これまでの経験を語ってくれました。
Adam氏は生まれつきの聴覚障害者です。
小さいころ通っていたのは聴覚障害者のみが集まる聾学校で、友人はみんな手話で会話をしていました。
授業の内容は数学やリーディングなど、ごく一般的な科目。
全てをアメリカ手話(ASL)で学んでいきました。
聾学校では人と人がとても近く、全体的に強い繋がりがあり、幼いAdam氏にとってはその世界がすべてでした。
しかし少し大きくなったころ、両親はAdam氏を一般教育へ移すことに決めたのです。
そこで初めて、聴覚障害者コミュニティの「聞こえない世界」と、健常者のいわゆる「聞こえる世界」の違いを学ぶことになります。
Adam氏はこんな事を教えてくれました。
“例えば、聴覚障害者が久しぶりに聴覚障害のある友人に再会した場合、
「おお!ちょっと太ったんじゃない?」と直接に相手に伝えることがあります。
聴覚障害者コミュニティでは、ごくごく自然な会話の一つなんですが、
視覚で捉えたものを言葉にしながら会話をするのが聴覚障害者の特徴かもしれません。
でも「聞こえる世界」では、相手が以前に比べて太ったことを直接伝えることはしませんよね。
これは大きな違いです。
聴覚障害者コミュニティはもっと集団の意識が強い。
逆に、「聞こえる世界」は個々が独立している。
生活の中で人との関わり方がまったく違うのです。”
アメリカでは多くの聴覚障害者が大学を卒業後、
アメリカ手話の先生になる、または聴覚障害者の団体で働くという選択をするそう。
その理由の1つは、聴覚障害者コミュニティの中にいることが心地よいからとAdam氏は言います。
そんな状況の中でも、彼は違う選択をしました。
ビジネスマンとして成功したいという夢を叶えるため、一般企業でキャリアを積むことに決めたのです。
しかし、それは決して簡単な道ではありませんでした・・・
スターバックスに入社する前、いくつかの企業で働いたというAdam氏。
それらの企業では健常者とうまくコミュニケーションを取れず、大変苦労したといいます。
また、Adam氏の仕事のパフォーマンスを平等に評価せず、成果を出しても昇進させないという職場の雰囲気があり
社内にある高い壁と圧迫感も感じていたそう。
Adam said,
“(社内の)高い地位と権力のある白人男性の多くが
「君はこの(低い)ポジションにいなさい」という顔で見てきます。
「今までしてきた仕事を、これからもずっとしていけば良いじゃないか」と。
この態度は本当に許せませんでした。”
スターバックスに入社すると、幸運にも直属の上司も同じく聴覚障害のある当事者でした。
この運命的な出会いにより、Adam氏はどんどん職場での能力を更に高めていくことができたと言います。
その上司は、成長の過程で徐々に聴力を失っていった中途障害者。
つまり「聞こえる世界」と「聞こえない世界」の両方を知っている人でした。
Adam氏が、健常者の同僚と仕事をする上で理解できないことが起これば
いつもこの上司に「なんで聞こえる人たちはこういう事をするの?」と質問をして、説明をしてもらっていたのだとか。
心強いサポートがあったお陰で、「聞こえる世界」とのコミュニケーション方法を
もっと理解することができたと言います。
スターバックス訪問レポートPart 2でMarthalee氏もおっしゃっていましたが
スターバックスは障害者の環境改善にさまざまな角度から取り組んでいます。
Adam氏はまさにそれを私に証明してくれました。
「聞こえない世界」で育った彼はいま、スターバックスというグローバル企業の一員として
「聞こえる世界」の人たちが大多数の環境でプロフェッショナルに働いている。
そして、その職場には自分の持っている意見や知識を、しっかり同僚に伝えられる環境があるのです。
Adamさんはこんな思いを話してくれました。
“スターバックスで仕事ができるということは本当に幸せなことです。
この会社で自分の能力を高めることができました。とても価値のあるものです。
ここを辞めて別の会社に行くことは考えられないですね。
別の会社に行けば、また一番低いポジションからやり直しになってしまいますから。”
このインタビューの中で、私が過去にいっしょに働いた聴覚障害の同僚のことを話しました。
私と彼女は、その会社にとって初めての障害者雇用の従業員でした。
これまで障害者従業員を採用したことがないため全てが手探り状態であり
中小企業ということから、使えるリソースも限られていました。
Moon Rider(車イスユーザー)の私にとっては、オフィス内が車イスで利用できれば特に他の対応はいりません。
しかし、その聴覚障害の同僚への対応は簡単なものではなく、会社も彼女自身も苦労していました。
例えば会議では手話通訳士はおらず、いつも彼女のチームメンバーが会議内容をその場で筆談で伝えていました。
一見適切な対応に見えますが、その筆談者も会議に参加しているメンバーです。
話を聞き、考えを整理したり、発言したりということをしながら、
ほかの人のための筆談の役目も加わるとなると負担は想像以上です。
また、社内で一番使われていたコミュニケーション方法は内線電話でした。
人事部は聴覚障害の同僚に了解を得た上で、全従業員に向けて
彼女には電話での連絡はしないようアナウンスをしました。
しかし数ヶ月経つとそのことを忘れる人が次第に増え、彼女の内線が鳴り始めたのです。
もちろん、彼女は聞こえないので電話を取る事はできず、
周りにいた同僚がいつもフォローをするようになっていきました。
こんな状況から彼女は日々ストレスが溜まっていき、2年後に退職。
私にとって仲が良い同僚の1人であり、唯一の障害のある同僚だったので、
退職と聞いた時はとても寂しかったです。
その1年後、私もその会社を退職して上場企業2社で働きましたが、
どの会社にも聴覚障害者はおらず、同じオフィスで働く機会はありませんでした。
障害者が健常者と同じように平等に働きたいと思っていても、
社内の理解不足や対応が十分でなければ、長くその会社に務めることは難しいです。
逆に、十分な理解や対応がある会社であれば、障害者だけでなく全ての従業員が
長くそこで働きたいと願うはずです。
日本の障害者の法定雇用率(*1)についてはこのブログで何度も書いてきました。
その法律があるため、多くの企業は障害者に目を向けて雇用しなければという意識があり、
これは良いスタートだと私は考えています。
少なくとも決められた雇用率分は、障害者へ扉が開いている状態だからです(*2)。
企業が考えるべき次のステップは、扉から入った先にある「社内」をどう変えていくか。
障害者への理解向上や合理的配慮への対応などが重要になってくるのです。
企業側が時間をかけて社内の環境改善を行えば、従業員たちの意識は次第に変わっていき、
障害の有無にかかわらず良い人材が集まる魅力的な企業になります。
社内の変化は非常に大きな違い生む。そのために今日から一歩動き出しましょう!
Part 4に続く
*1 日本の障害者法定雇用率については以下の記事に記載しています。
*2 障害者採用の法定雇用率にはポジティブな面だけでなく、ネガティブな面もあります。
私が実際に就職活動で経験した内容を以下の記事で紹介しています。
毎回、興味深く拝読しています。
私は、企業に勤めながらこの春から就労系福祉サービス「就労移行支援事業所」における課題について研究をしたい思い、52歳に大学院進学を決めました。
ADA法があるアメリカと、日本はやっとから始まる「合理的配慮」の動向が気になっています。
コメントどうもありがとうございます。52歳からの大学院進学、とても素敵ですね!京子さんのように、いくつになってもチャレンジする気持ちを忘れずに前に進んでいきたいです。
合理的配慮については私も注目しているところです。このブログでも何度か書いていますが、アメリカの”大手”企業では特に障害者だけに提供されるものではなく、どの従業員でもリクエストできるようになっているところが多いという印象です。中小企業はリソースも限られるので、そこまでできないと思いますが…。日本の企業もこれからどう変わっていくか楽しみです。