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*** Part 3 はこちら ***
シアトルを訪問する数ヶ月前から、スターバックスでシニア・アナリストとして働くMichelle Collyer氏と電話でお話する機会がありました。
直接お会いしたことはなかったのですが、障害者の活躍を促進するためアクティブに行動されていることを知り、すぐに意気投合。
私の取り組みも支持してくださり、スターバックス本社で取材できる人を次々にアレンジしてくれました。
彼女の広いネットワークなしに今回の訪問は実現できなかったと思います。
本当にありがとうございました!
そんなMichelle氏から紹介していただいた1人がJessica Rafuse氏です。
スターバックス本社のEqual Employment Opportunityチームでマネージャーとして働く彼女は、
筋ジストロフィーで大学生のときから車イスユーザー。
大学時代には、アメリカに比べてまだバリアフリーが進んでいないスペインにも留学していたと言います。
“もう14年も前のことになりますが、スペインでの生活は人生を大きく変えました。
何かを成し遂げたという達成感は今の自分の生活にもすごく影響を与えています。
障害者が生活のなかで達成感を感じたり、成功体験をするにはたくさんのバリアがありますよね。
そのバリアを私たちは取り除いていかなければなりません。”
スペインから帰国したあと、法科大学院へ進むことを決意したJessica氏。
卒業後は弁護士の資格を取り、米連邦政府機関であるthe Equal Employment Opportunity Commission (EEOC) にて捜査官・審判官として働きました。
担当していたのは、連邦法で定められている職場での差別禁止の分野。
その仕事を通して企業側から見た職場の環境や考え方を知りたいと思うようになりました。
2013年にはスターバックスに入社し、”Affirmative action and non-discrimination (直訳は「積極的格差是正措置と差別の廃止」)の部門で働き始めました。
翌年の2014年にリハビリテーション法第508条が改正され、7%の障害者採用を”目標”とすることが加わった(*1)ことをきっかけに、
Jessica氏はマイノリティ人材(例:女性、退役軍人、障害者など)の雇用推移を分析しはじめました。
障害者雇用に関しては、採用を強化をするため新たに雇用戦略を立案。
その中の1つに、スターバックスのサプライチェーンで実施されている「トレーニングアカデミー」があります。
これは、ネバダ州とペンシルバニア州にあるスターバックスの製造工場にて
障害者を対象に6週間の研修を行うというもの。
研修生はスターバックスの企業文化や、製造・配送の職場で必要なスキルを学ぶと同時に
就職活動で必要となってくるソフトスキル(面接の準備など)も学んでいきます。
研修のあとには、2週間の実習も経験できるので実際に働くイメージをつかむことができます。
プログラム修了生は、条件が合えばスターバックスの従業員として働くことも可能。
また修了証をもって他の就職先で製造や配送業に就くという選択もできます。
Jessica氏は仕事を通してこんなことを学んだといいます。,
“マネージャーたちへ「雇用における最大の目標は何か?」と尋ねたとき、
みんな同じ目標を持っていることに気づきました。
それは「その仕事にとってベストな人材を採用したい」ということです。
では、どうすれば障害者も”ベストな人材”として見てもらえるのか?
この答えを探すなかで、直接障害のある従業員にこう質問してみたのです。
「あなたの強みは何ですか?あなたの持っている資産は何ですか?あなたの得意なことは何ですか?」
そうすると彼らは次々に、自分の障害を通して得たスキルについて話し始めました。
これまで活用できていなかった能力を戦略的に活かすことができるのでは?と感じた瞬間でした。
例えば、糖尿病の人は毎日血糖値を測っています。
1日に食べる食事を事前に計画したり、飲む薬を準備したり、緊急時にはどうすればいいか等もしっかりと計画しているのです。
これは、日常生活で”プロジェクト・マネジメント”のスキルを磨いていることに相当し、会社の中で活かせる重要な資産。
私は自信を持って「プロジェクト・マネージャーには糖尿病の人が最適ですよ!」と断言できます。”
職場で活かせるスキルを持っている障害者はもちろん沢山いますが、
Jessica氏が言われていたような、障害があるからこそ得ることができた特別な”資産”もあるのですね。
障害者は、健常者とは異った視点で物事を見たり、聞いたり、動いたりすることが多いので
無意識のうちに特別なスキルを得て、日々の生活のなかで更に磨きがかかっているのでしょう。
これは私に取っても新しい気づきでした。
日本の障害者雇用の深刻な問題として、”障害者への期待値が低い”ということがあります。
Jessica氏の話に出てきた「その仕事にとってベストな人材を採用したい」という気持ちは
きっと日本の企業も同じ考えだと思います。
しかし疑問に感じるのは、日本の企業が障害者を「ベストな人材」の候補にそもそも入れているか?という点です。
最初から無意識のうちに候補から外してしまっている、そんなことはないでしょうか?ぜひ考えてみてください。
全4回に渡ってお送りしたスターバックス訪問レポートもこれで終了です。
これまで多くの企業を訪問してきましたが、ダイバーシティ&インクルージョンの強みを直に見ることができたのは初めてでした。
特に強く感じたのは、企業側が障害者に働いてほしいところに配属するのではなく
障害者自身が自分の能力を伸ばせる場所を希望できる、そして実際に活躍できる環境があるということ。
そのためにも企業は採用する際に、その人の「能力」を見て判断することが重要になってくるということです。
スターバックスをより強く、そしてより魅力的にしている要素をたくさん知ることができました。
最後にスターバックスのHoward Schultz CEO(社長)の言葉をご紹介します。
これはまさにスターバックスの価値観を表現しているなと感じます。
私たちはコーヒービジネスをしているのではない。人間ビジネスをしているのだ。
– Howard Schultz CEO
終わり
*1 リハビリテーション法第508条が改正についてはこちらをご参照ください(英語のみ)
密かにファンでブログ見てます。
筋ジストロフィーの当事者です。
社会福祉士を目指していますが、北海道に住んでる為、したい仕事に就くには通勤手段の確保が必要です。半年間は雪に埋もれちゃうので。
ですが、公的な支援で通勤は認められていない地域(札幌市なんですが)なので、福祉タクシーか数少ない私的サービスに頼るしかなく就職自体が厳しいです。また福祉タクシーも朝早く、夜遅くとなると平日毎日営業してくれる会社はありません。アメリカでは通勤についてどのような手段があるのでしょうか。
今後、自営業でこの問題に取り組みたいと思っているので是非教えてください!
コメントどうもありがとうございます!公共交通機関で通勤できる環境は、アメリカでも日本でも都市部のほんの一部だけですね。特にアメリカは車社会と言われるほどなので、車がないと生活はとても不便です。(私もシラキュースで運転を禁止されているので、特にそう感じます・・・)
通勤ということで、これまで訪問した企業の例で紹介すると、シリコンバレーの大手ハイテック企業(Yahoo, Facebook, Ciscoなど)は会社が手配した従業員用のバスがあり、サンフランシスコや周辺地域の主要駅などをまわって会社まで連れて行ってくれます。実際に会社に入ってくるバスを何台も見ました。車内はWi-Fiも完備されていてバスに乗り込んだらすぐ仕事ができる環境だそうです。
スターバックスで取材したmasakiさんと同じ筋ジストロフィーのJessicaさんは、自宅〜会社の近くにバス停がないため、行きは旦那様が車でJessicaさんを送り(そのあとご主人は自分の職場へ)、帰りはJessicaさんのお母様が車で迎えに来られるそうです。この方法でも通勤はかなり大変だと言われていました。とくにシアトルは朝のラッシュが大変+旦那さんとJessicaさんの職場は真逆の方向なので、朝は早起きして旦那さんと家を出るそうです。
また業界・職種にもよりますが、アメリカではRemote Work(オフィス以外で仕事をする)という方法も珍しくありません。障害者に限らず、小さなお子さんがいる人や、家族のケアをする人など別の場所から働くことができます。日本ではまだまだ、仕事=職場に行ってそこで働く、という考えが主流ですが、いろいろな状態の人の生活環境に対応できる働き方が広がってくれたらと思います。