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シアトルにあるAcademy for Precision Learningの校舎

 

アメリカに来て半年が過ぎました。

こちらの環境が住みやすいと感じる理由の1つに「自然に生活できる」ということがあります。

車イスで外を出歩いても、ジロジロを見てくる人はいません。

むしろ私を見かけると、ドアを開けて待っていてくれたり、エレベーターやバスの乗り降りを先に譲ってくれる人が多いです。

なぜアメリカの人がそのように行動できるのか、大きく影響していることの1つに教育環境があると思います。

昨年、シラキュースでの学校訪問レポート(*1)を書きましたが

2月に訪問したシアトルでは、Academy for Precision Learning(APL)という非営利の私立学校を訪問することができました。

 

木造建築の可愛らしい校舎にあるAPLは全校生徒109名、K12(幼稚園~高校まで)の生徒が学んでいます。

障害のある生徒も障害のない生徒も一緒に学ぶインクルーシブ教育を実施しており、

障害の種別では自閉症が最も多く、知的障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害、うつ病などの生徒も在籍しています。

 

APLの最大の特徴は、生徒一人ひとりに合わせた教育環境を作れるというところ。

公立学校に通う障害のある生徒はIEP(Individual Education Plan *2)という個別教育プランに合わせて

授業のサポート内容をアレンジしたり、校内にいる理学療法士(PT)は作業療法士(OT)からのトレーニングを受けます。

一方APLでは、生徒一人ひとりの将来の目標に合わせた高いレベルの教育環境を提供しています。

また、公立学校では高校卒業後の進路計画を16歳からスタートしますが、APLでは2年早い14歳からスタート。

長期的に必要なスキルを身につけていくことで、卒業後、より確実に将来の目標に向かって進んでいくことができます。

 

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高校クラス(休憩中)

日本と同じく、アメリカの公立学校では1クラス生徒30人に対して先生が1人というケースがあります。

しかし、APLでは1クラスの生徒数は最大25名まで。

大人は担任、副担任、Board Certified Behavior Analyst (BCBA: 認定行動分析士)、1対1で勉強を見る必要がある生徒には専任の教員なども入り、合計8~10名になることもあります。

私が2月に訪問した際、APLの高校生クラスは全25名、常勤教員は15名でした。

その他に特定の科目だけを教える非常勤の教員もいます。

 

現在APLには、公立学校に在籍しているようなPTやOTはいませんが、トレーニングが必要な生徒には、PTやOTがAPLまで出向きトレーニングを提供します。

 

高校のクラスを見学させてもらったとき、教室内で1対1で授業を受けているエミリー(仮名)と出会いました。

彼女は障害があり口語で会話をすることはできません。人との意思疎通は以下のようなiPadを使って行います。

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この写真は3月にサンディエゴで開催された「テクノロジーと障害者」という国際会議で見つけたものです。

エミリーも同じようなデバイスを使って会話をしていました。

iPadの画面には、

人をあらわす言葉(わたし、あなた、彼、彼女)

動作を現わす言葉(行く、見る、食べる)

感情を現わす言葉(嬉しい、悲しい)

物の名前(食べ物、飲み物、場所)などが書かれています。

これをポンポンと指差してコミュニケーションをとっていきます。

 

日本の一般的な教育環境から見ると不思議に思う方もいらっしゃるでしょう。

「同じ科目を同じスピードで学べない人がいっしょの教室で学ぶ意味があるのか?」と。

校内を案内してくれたAliciaさんはこう教えてくれました。

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Alicia Schmokerさん:生徒たちの教育プランのコーディネートをされています

 

APLのカリキュラムはすべての生徒に対応できるようになっています。

エミリーは去年、生物のクラスを他の生徒と同じように履修しました。

彼女と他の生徒が違うところ、それは生物学の中で何を学ぶかというところです。

エミリーの今後の生活において、より意味のある内容を学んでもらうカリキュラムになっているのです。

 

例えば、他の生徒たちが体の仕組みについて学んでいるとき、エミリーは自分の感情(空腹、痛みなど)をどう表現すれば良いかということを専任の教員と学びます。

APLが大切にしているのは、その生徒が必要とするスキルを身につけ、将来の目標に近づけること。

エミリーの場合、高校卒業後は大学進学ではなく就職する可能性が高いです。

彼女が自立した社会人になるために必要なスキル、それは自分自身の感情を相手にきちんと伝える能力。

そうすることで、安心して1人で外に出て仕事に行ったり、買い物をしたり、公共交通機関を利用したりと

アクティブに自立した生活を送ることができるのです。

 

APLには様々な背景をもった生徒たちが集まっていますので、エミリーだけが例外ではありません。

生徒たちはそれぞれに学習面で配慮を受けながら授業やテストを受けています。

隣の席に座っている生徒が自分とはまったく違うテスト様式になっている、というのはよくあること。

一人ひとりに合わせた学習環境を作っているからです。

生徒たちは一人ひとりの「違い」を理解し、その「違い」に価値を見出しています。

「違い」が個性であり、特別であることを知っているのです。

 

高校生のクラスでは、毎年9月(アメリカの新年度の月)に生徒と教員が一緒になって学校生活のポリシーを作っています。

次の学期にはその内容を生徒みんなで見直して修正を加えていきます。

すべての生徒が自分の意見を持ち、意見を伝えられる環境をつくることで

人に認められる経験ができますし、期待やルールを意識して行動できる生徒を育てていくことができます。

 

同じ内容を同じように同じスピードで学ぶことが、全ての人にとって意味のあることとは限りらないのですね。

障害者だけに限らず、健常者の中にも義務教育のあと進学する人もいれば、就職する人もいます。

生徒が知っておくべき情報や持っておくべきスキルとは、それぞれ違って当たり前です。

 

APLは各生徒に教育をアレンジできることを強みに運営している学校です。

なので、すべての学校で実現できる環境することは難しいかもしれません。

それでもインクルーシブ教育の意味や効果をぜひ知ってもらいたいです。

重度の障害者が一緒のクラスで学ぶことは決して不可能ではありません。

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最後にこんなエピソード。

APLの廊下を歩いていると、小学校中学年くらいの女子生徒に出くわしました。

車イスの私を見て、

 

女の子「何でそれ(車イス)に乗ってるの?」

わたし「歩けないから乗ってるんだよ」

女の子「へー。(私の足元を見て)あ、ヒールを履いてるの!?」

わたし「うん」

女の子「わー!素敵!」

 

というやり取りがあったのです。

 

自分と違う人が周りにいる → なぜ違うのか質問する理解する受け入れる

 

子供はこのプロセスがスピーディにできるということを実感しました。

多様性(ダイバーシティ)の受け入れは、大人になってから突然できることではないと私は感じています。

表面上は受け入れているつもりでも、無意識に差別的な言動をしている人はたくさんいるのではないでしょうか?

 

小さい時の教育環境は大人になってからも大きく影響します。

小さい時から「違い」が当たり前にある環境で育てば

大きくなってからも「違い」のある環境が当たり前に受け入れることができ、

「違い」がある人と自然にコミュニケーションが取れるのです。

 

日本の教育現場も「同じ」にこだわり過ぎず、もっと「違い」があっても良いのではないでしょうか?

そうすることで、上辺だけではなく一人ひとりの違いに価値を感じることができる、

自然に多様性を受け入れられる大人を作っていけるはずです。

真のダイバーシティ&インクルージョンを実現するには、教育環境の変化が重要なキーであると私は考えます。

 

*1 シラキュースにあるインクルーシブ教育のプリスクール “Jowonio”を取材レポート。

学校訪問 No.1 ~Jowonio School~

*2 シラキュースの公立小学校訪問レポート。IEPについても記載しています。

アメリカの小学校訪問から見えた日本の教育課題

 

One thought on “未来の教育のカタチ 〜ダイバーシティの力〜

  • 1月 27, 2017 at 10:02 pm
    Permalink

    学費はどれくらいでしょうか?
    日本ではまずは教師の育成が必要ですね。

    Reply

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