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4月に訪問したボストンでは、いくつか研究用の取材をさせていただきました。
まずは、障害者の自立生活センター”Boston Center for Independent Living”。
取材に応えてくださったのは、Allegra Stout氏(コミュニティ・オーガナイザー)とSarah Kaplan氏(インターンシップ・コーディネーター)です。
以前、サンフランシスコを訪問した時に、サンフランシスコの自立生活センターを紹介しました(*1)が、
アメリカでは各都市に自立生活センターがあり、その地域の障害者をサポートしています。
アメリカで最初に出来た自立センターはカリフォルニア州バークレー。
そして2番目にできたのが、このマサチューセッツ州ボストンです。
自立生活センターの特徴は、従業員とボードメンバーの半分以上が障害のある当事者であるということ。
障害の種類やレベルは違っても、障害者としての経験や観点を活かして
サポートを必要としてる障害者に効果的なアドバイスができるのです。
今回お話を伺ったAllegra氏は学習障害と慢性疾患を、Sarah氏は脳性まひ、学習障害、情緒障害があります。
今回の取材で一番興味を持ったのは、Transition Internship Program。
開始して6年目になるこのプログラムは、障害のある高校生を対象にした有給インターンシップです。
昨年までは夏休みの期間を利用した7-10週間のインターンでしたが、今年から春のプログラムも開始しました。
提携しているのは地元ボストンの営利・非営利団体、一般企業、教育機関、政府機関など。
通常の就職活動と同じ経験をしてもらうため、採用枠を設定し、書類選考を経て面接が行われます。
昨年は25名枠に102名の応募者があり、そこから書類選考をして57名を面接したといいます。
採用されたインターンシップ生には一人ひとり仕事の希望を聞いているそうなのですが、
そこで重要視しているのは「何ができるのか?」を聞くのではなく、「何をしたいのか?」。
たとえ難しそうな業種であっても本人が一番したい仕事ができるようアレンジしていきます。
そうする方がインターンシップの成果も高く、何よりも自分の能力を試す機会にもなるからだそう。
多くの健常者は小さい時から失敗と成功を繰り返しながら成長していきます。
その中で、自分が何ができるのか、何が得意かを知っていくのです。
しかし、障害のある子供は小さい時から守られた環境で育つことも少なくありません。
周りにいる大人、特に親は自分の子供が直面する壁を恐れるあまり、最初からリスクを回避させる傾向があるためです。
このTransition Internship Programでは、そういう子供たちが失敗を経験する可能性も見込んで、
それでも本人がしてみたい仕事を優先して経験させるようにしています。
アメリカでよく使われる言葉に、”Dignity of risk(リスクを負う尊厳)”があります。
すべての人は新しいことに挑戦する(リスクを負う)権利があり、うまくいけば成功。
そこで失敗したとしてもその経験から学ぶことがあり、次の成長につなげられるという意味です。
リスクには失敗の可能性もあるが、成功の可能性もある
とSarah氏は言われていました。
Transition Internship Programでは、ジョブコーチ(*2) が付いており、
実習だけではなく仕事に必要なソフトスキル(ビジネルメールの書き方、電話応答、セルフアドボケートなど)も学んでいきます。
またその中で障害の公開についても学びます。
障害を公開した場合、公開しない場合、それぞれにどんな結果が予想されるかと教えるのだそう。
アメリカでは障害の公開は応募者が選択できるようになっており、
企業が一部の応募者だけに今ある障害または障害の可能性について質問することは違法になっています。
しかし面接では、業務上必要なことについて違うカタチで確認されることはあります。
Moon Rider(車イスユーザー)のSarah氏は、
例えば面接官が私に、
この仕事は他の人の家にいくことも出てきます。もしその家に階段があった場合、どうやってアクセスしますか?
と聞くとします。
そこで私は、どうすればその課題を解決できるかを考えて面接官に提案します。例えば、
もし階段がある家ならスカイプで話し合いをします。もしインターネットがない環境のクライアントであれば、同じチームで働く同僚に、その人を担当してもらい、私は代わり別のクライアントを引き受けます。
など。
私は階段は登れませんが、他は何でもします。雇ってください。
とは言うべきではないですよね。それでは解決になっていませんから。
こういう交渉を雇用主とするにも、まずは面接にたどり着く必要があります。
そのためにも障害を公開するかどうか、公開するならいつどうやって伝えるかが重要なポイントになってきます。
アメリカでは高校までが義務教育であり、障害のある生徒は高校までしっかりと守られた環境で生活しています。
物事を決めるのは親が中心になっているケースも多いです。
ただ就職に関しては、代わりに親が面接に行くということができません。
自分の言葉で想いを伝えていかなければならないのです。
しかし、ただ想いを伝えたら良いというわけではなく、企業のニーズと自分のしたい事やできる事がマッチしていることを伝える必要があります。
そしてそのスキルは、ある日突然身につくものではありません。
障害者が多く働くボストン自立生活センターだからこそ、実体験をもとにより効果的なアドバイスやサポートができ、
インターン生たちはリスクを取りながら成功・失敗を経験して社会人としての準備ができるのだなと感じました。
*1 サンフランシスコ自立生活センターのレポートは以下から読むことができます
*2 ジョブコーチについて: Wikipedia