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仕事をする上で障害者であることが不利に働くことがありますが、女性である事もまた不利になる場合があります。
内閣政府男女共同参画局の「平成27版年度版 男女共同参画白書」によると、日本の女性管理職は11.3%(*1)と諸外国に比べてもかなり低い数値になっています。
つまり、女性であり障害者でもあることはキャリアを積んでいく上で厳しい環境があると言えます。
現在のアメリカでは仕事の場でも性別・障害・宗教・人種などに”Equality(平等)”があることをが重要視されていますが、過去には明らかな差別もありました。
ボストンでお会いしたLisa Iezonni氏は、マサチューセッツ総合病院に勤務しながら、ハーバード大学医学大学院でも教壇に立ってる女性教授です。
多発性硬化症のため日常生活では車イスを使っています。
Iezonni教授の病気がわかったのは、ハーバード大学医学大学院に入学してすぐのころでした。
当時はまだADA(障害のあるアメリカ人法)が施行される前。
通常、医学部生は現場での研修をしなければならないのですが、大学院側は推薦書を書くことを拒否したのです。
推薦書なしでは研修先への応募はできませんでした。
この過去の出来事をあなたに話す理由は、ADAがとても重要な法律であるということを知ってほしいからです。
現在の障害のある医学部生には同じような差別は絶対におきません。それは法律に反する行為だからです。
ただ、ADAが出来たあとも差別が完全になくなったというわけではありません。
過去に、車イスを使っていることを事前に言わず面接に行ったことがあったのですが、面接官は私と目を合わせず、別れ際に挨拶もしてくれませんでした。
このような差別的な態度は、あとから事実上、立証したり定量化することは不可能です。
Iezonni教授がキャリアをスタートしたのは、多くの女性がプロフェッショナルとして働ける環境が少しずつ出来てきた頃。
インターンシップや研修の機会はありませんでしたが、リサーチアシスタントの仕事を得ることができました。
あるとき、リサーチに使う助成金の申請準備をすすめていたIezonni教授は、男性の所属長から呼び出されこんなことを言われたそうです。
君はリサーリアシスタントだったね。
リサーリアシスタントの名前では助成金申請書は出せないんだ。
君の直属の上司に相談したら、彼が名前を使っても良いというから、名前を書き換えてくれないか。
すごく悔しい思いをしながら、自分の名前から男性の上司の名前に書き直したIezonni教授。
結果としてその助成金を得ることができ、リサーチアシスタントから准教授まで昇進することができました。
しかし、その職場では他にも女性であること、障害者であることで差別的な言動をされることがあり、長くはその職場にいなかったといいます。
私自身も2社目の企業では、女性+障害者であることから仕事の量や質で男性社員との大きな差を感じることがありました。
40代~50代の男性が中心となって動いている業界では、このような差別はまだ存在しているでしょう。
最初に勤めた会社がそういう文化の会社であれば、それが当たり前になってしまうかもしれません。
でも、私が最初に勤めた会社は、女性の役員がいて、管理職になっている女性が何人もいた職場。
女性だからこの業務をすべき、男性はこの業務はしなくていいというものはありませんでした。
そんな環境からの転職だったので、2社目には入ったとき衝撃は大きく、「このままではいつまで経ってもキャリアアップはできない」と感じて1年で3社目に転職しました。
もちろん、男女間で興味のある分野、得意な分野が分かれることもあり、どうしても男性が大多数になってしまう業界というのは存在します。
だからといって、女性を軽視して良いというわけではありません。
そういう業界こそ、女性従業員への対応は十分に気をつけないといけないのではないでしょうか?
何気ない言葉や態度ひとつで、優秀な人材を逃してしまうこともあります。
それは会社にとって人を失うというマイナス面だけではなく、会社の評判を下げることにもなり兼ねます。
実は、Iezonni教授にインタビューをした前日、4月12日はアメリカの”Equal Pay Day(平等賃金の日)”でした。
アメリカの男性が2015年1月1日から稼ぐ1年間の給与と同じ額を女性が稼ぐには、2016年4月12日まで働かないといけないことから、この日がEqual Pay Dayになっているそうなんです。
日本でも男女の給与格差は問題視されています。
OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)の最新のデータによると、ヨーロッパや北米の先進国のメンバー34カ国のうち、日本はワースト3位(*2)という恥ずかしい状況。
働く環境の改善もそうですが、賃金の平等にも力を入れていかなければなりません。
Iezonni教授は最後にこんなことをおっしゃっていました。
ADAが施行されて26年が経ちました。
そのあとに学校教育を子供たちは、同じ教室に障害のあるクラスメイトがいるのは当たり前の環境です。
そういう世代の子供たちが今、どんどん管理職になり、経営者になっています。
例えばFacebook(*3)のCEOマーク・ザッカーバーグは31歳。
きっと彼の通った学校や大学には障害のある生徒がいたでしょう。
彼と同じ若い世代の人たちにとって、障害者は未知の存在ではありません。
どうすれば一緒に働けるかを考えることができるのです。
女性がプロフェッショナルとして働ける環境ができたように、障害者も同じようにプロフェッショナルに働ける環境というのは世代が変わることで実現していけると私は信じています。
日本ではアメリカほど障害児が一般教育を学ぶ環境が整備されてはません。
しかし、私もIezonni教授と同じく、若い世代ほど障害者を自然に受け入れるまで時間はかからないと感じています。
今では多くの女性が大学に進み学んでいますし、まだ十分とは言えませんが過去に比べると障害者も一般教育を受け、大学進学を選ぶ人は増えています。
そういう世代の人たちが社会に新しい価値観や観点を取り入れて、これまでの考え方から、もっと平等な考え方に変えていってくれるのではないでしょうか。
ただ、若い世代に期待するだけでなく、すでに社会に出ている私たちもできることがあります。
違う性別の人や障害のある人へどんな言動をしているか、少し振り返ってみませんか?
若い世代の人たちはより平等な環境で育っているので、職場にも同じ環境を期待しているはず。
彼らを待ち受ける私たちも今から変わっていかなければならないのです。
*1 内閣政府男女共同参画局 「平成27版年度版 男女共同参画白書」
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h27/gaiyou/html/honpen/b1_s02.html
*2 経済協力開発機構 ”Gender wage gap” (英語のみ)
https://www.oecd.org/gender/data/genderwagegap.htm
*3 Facebook本社を訪問した際のレポートは以下から読むことができます。